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2021.09.29

コロナ禍のイマ、
住まいから生き方を見つめ直す。
自然と人、家族を繋ぐ未来の家「TREEFULLHOUSE」。

子供の頃、誰もが憧れた木の上の秘密基地。そんな夢を叶えたような建物「TREEFULLHOUSE」が2021年2月に箱根に誕生。 近年、注目を集めるサスティナブル思想やコロナ禍という時代背景を交え、同施設の管理者である寺田和弘さんと、プロデュースを担当したTransit Branding Studio 岡田光の2名にインタビューをしてきました。

山道を突き進み目の前にツリーハウスが現れた瞬間は気持ちが上がりますね。コロナを機に自然を求めて地方に移住する人も増えていますが、今回TREEFULLHOUSEを建てたのも、それが関係しているのでしょうか?

  • 岡田

    大前提として、コロナから逃げるためのシェルターとしてTREEFULLHOUSEを企画したわけではなく、構想から実行までかなり長い時間をかけて、やっと完成したものなんです。ただ、コロナによって、世界中で住み方の変化が起きたとは思っています。

  • 寺田

    TREEFULLHOUSEが誕生したきっかけは、ゼロウェイスト宣言をしている徳島県・上勝町で、シンプルな住まいや生き方を体現する 平家のタイニーハウスを造ろうというのがはじまりなんです。

    当初タイニーハウスは、10平米の小さな部屋を5つ組み合わせた建物で、その中に全ての機能が詰まっている「TINYFULLHOUSE(タイニーフルハウス)」にしたいと考えていました。コンセプトを作り、岡田さんと建築設計を依頼する予定のNAP建設事務所の中村拓志さんを呼んで、トランジットのオフィスで企画書を開こうとした瞬間、中村さんが立ち上がって「木の上に建てませんか?」と言ったんです。笑

  • 岡田

    懐かしいなー。笑

  • 寺田

    そういった経緯がありTREEFULLHOUSEは、元々タイニーハウスにあったゼロウェイストや、オフグリットなどのシンプルな生き方をベースとして持ち、その意思を発信する建物となっています。なので、階段の踏み板やデッキ部分は貰い物だったりします。
    TREEFULLHOUSEの利用を通して、多くの方に共感していただき、嬉しい限りです。

コロナ禍というよりも、サスティナブル思想を時代に先駆けて取り入れたプロジェクトで、ちょうど今と重なる形になったんですね。TINYFULLHOUSEからTREEFULHOUSEへと変わり、テーマも「Peace, Beauty, Tranquility」に変更になったんですよね? どういった意味が込められているのでしょうか。

  • 岡田

    「Peace, Beauty, Tranquility」はテーマというより、メッセージなんです。
    翻訳すると「平安、美観、静寂」になるんですが、これはTREEFULLHOUSEで過ごしたり、暮らしたりする際に得られる環境やムードを表す情緒的な言葉“メッセージ”なんですよね。
    メインテーマとして掲げているのは「MINDFUL LIVING」という暮らし方”です。

    2010年、建築家のOona Horx-Strathernがオーストリア・ウィーン近郊に”Future Evolution House”を造りました。そこで環境配慮や、意義あるテクノロジー導入の意味を込めた「MINDFUL LIVING」というメッセージをいち早く唱えていて、その言葉の本質に「The Connection between Human and Nature(自然との共生)」があるんです。
    木の上の家という子供の夢みたいな試みが、どいういった形でMINDFUL LIVINGへつながるのか?
    コロナによる住環境の変化については冒頭で触れましたが、TREEFULLHOUSEはそれとは異なる動きを持っていて、よりシンプルに暮らして、自然の草花や動物、そして「自分と向き合う」ために造られた場所なんです。

  • 寺田

    そうそう、自分と向き合う場所なんですよね。まぁ、このコロナを機に今までのラグジュアリーという言葉の意味が変わる人も出てきていると思うんですよね。
    これまでラグジュアリーと認識されていたものがそうではなく、シンプルに暮らすことで、自分自身と向き合い自然と共生していくことも“ラグジュアリー”と呼べるんじゃないかなと。

一見、シンプルとラグジュアリー相反しているような考え方ですが、確かに自然と触れることが贅沢に感じるようになった気がします。思想を体現するためには、デザインに関しても相当考えられたと思うのですが、どういったポイントがあるのでしょうか。

  • 寺田

    ここ、TREEFULLHOUSEは、華美なものを引いて日本的な茶室のような反消費主義の思想というか哲学というか…。そういった日本的な要素を取り入れています。
    中村さんはこの建築を、よく「聖性(せいせい)」という言葉で表していて、例えば…TREEFULLHOUSEの土台として使われている柱は鳥居を意識していたり、手すり部分に使われている石は、落ちている石を拾ってきて、磨いて、乾かして使っていて、全ての自然には神が宿る「アニミズム」の考えを持っているんです。その聖性という点において、日本的な要素を持つTREEFULLHOUSEなんですよね。

  • 岡田

    確かにTREEFULLHOUSEには、日本的な雰囲気はありますよね。実際に行くとその「聖性」という部分が伝わってくるかもしれないですね。

確かに、シンプルですが厳かな雰囲気を感じます。機能面においては、従来のツリーハウスとどのような点が異なるのでしょうか。

  • 岡田

    最大の違いは「住める」という所ですね。
    TREEFULLHOUSEには、トイレやシャワー、水回りなどの給排水設備を完備しています。給排水設備をいれることで「建築物」となるので、TREEFULLHOUSEは「住宅」という位置付けになり「住む」ことが可能です。

  • 寺田

    岡田さんが言った通りTREEFULLHOUSEは住宅なので、暮らす(泊まる)ことができます。なので、実際に体験していただくために、現在は宿泊施設として運用しています。
    そして、今後、TREEFULLHOUSEは住宅販売も含めて考えているので、「シンプルに暮らす」ことができる建物として広めていきたいです。

実際に暮らしていくとなると、災害が多い日本では不安な面も多くあると思います。揺れなど不安な面もあるかと思うのですが、その部分に関してはどうなんでしょうか?

  • 寺田

    構造上3本の柱で成り立っているので、どうしても揺れはあります。ただ、その揺れは「浮遊感」のある揺らぎなので、決して不快な揺れではないんです。日本は地震が多い国ですが、その地震の揺れも全く気づかないくらいです。建物が揺れているのか、地震で揺れているのか、錯覚を起こすくらいです。
    TREEFULLHOUSEの包み込まれるゆりかごのような揺れを感じながら過ごしていただきたいですね。

今も風の揺れを感じますが、怖いというより心地良さがありますね。 具体的に利用者の方に、この空間をどのように利用(生活)していって欲しいですか?

  • 岡田

    自分自身と向き合う場とお伝えしましたが、最近、皆コロナによって家族の結びつきが強くなったと思います。僕も妻や娘といる時間が長くなったし、多くの人が家族と過ごす時間が増えたんじゃないかなと。TREEFULLHOUSEを通じて、さらに強い絆で結ばれるのも良いんじゃないかなと思いますね。もちろん、一人で利用する方には自分自身と向き合う有意義な時間を過ごしてもらいたいです。

  • 寺田

    うんうん、テレビもないし、エアコンもない余分なものがないシンプルな設備になっているので、1人の時は自分と向き合う場所として、家族や夫婦の場合はより絆を強く感じられる場所として利用して欲しい。

    この間、都会に住む姉妹3人と母親の計4人で宿泊していただいたんですよ。ちょっと施設的に4人は多いなと思ったんですが、どうしても宿泊したいとのことで、宿泊してもらったんです。
    後日、「一緒に宿泊した5歳の妹が建築家になる目標を掲げ、ツリーハウスを建てるといって勉強を始めました」ってメッセージが来たんですよ。それってすごいなって思って。
    都会の子供達って360度森に囲まれる経験が少なく、また感受性が豊かな時期だからこそ、大人より強く“自然に包まれる”ことを感じるというか、小さい子はTREEFULLHOUSEに異常に反応するんですよね、TREEFULLHOUSEを通じて、子供たちにはそういった感覚を味わって欲しいなって思います。

大人だけではなく、子供の教育という面でもいい影響を与える場所になりそうですね。 最後の質問になるのですが、TREEFULLHOUSE通して伝えたいメッセージはありますか。

  • 岡田

    家は人生を映す鏡と言われていて、住み手の個性や価値観を表現するものだと思います。
    日本は高度経済成長期に急激に住まいのカタチが変貌して、住宅から畳やちゃぶ台や縁側が消え、アメリカのライフスタイルに憧れるあまり、それ狙いでハウスメーカーやマンションメーカーが個性や文化よりも、限定された住まいのマスプロダクションをしてきました。果たして、今、住んでいる皆さんの家は皆さんの個性や価値観を表現するものになっていると言えるのでしょうか?

    TREEFULLHOUSEは、単なるコロナで疲れた人のオアシスではなく、住み手と作り手の価値観が重なった上でできた場所です。ここで生活すると、何が足りていて、何が足りていないのか、きっと見つかるはずです。例えば、虫ってこうやって捕まえるんだとか、鳥の巣はこうやってできるんだとか、フクロウの鳴き声ってこんな音なんだなど、今まで足りていなかった部分が補え、子供の教育にも繋がる“好奇心”というものが育めるんじゃないかなと思うんですよね。

    「どうして木の上にしたか?」という質問があるかと思います。
    それは文字通り木の上という高い視点で世の中と自分を見つめ直すためで、視点が変わるってことは大事だと思うんですよ。1日だったらわからないかもしれないけど、365日過ごしたら視点が大きく変わると思います。

    それは、住宅としての役割を持つTREEFULLHOUSEだからこそできることで、その視点の変化が楽しめることこそが「MINDFUL LIVING」というテーマに繋がるんじゃないかなと思っています。

TREEFULLHOUSE

木の上で「MINDFUL LIVING」という暮らし方を体験する住宅。
シンプルに、自然の草花や動物、そして「自分と向き合う」ために造られた場所。

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