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徳島県徳島市からクルマで約1時間の上勝町は、2003年に国内で初めてごみゼロを目標に掲げる「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った町です。2020年5月30日(ごみゼロ)の日に廃棄物分別回収施設、中古品回収施設、コミュニティ施設、オフィス施設、体験型宿泊施設からなる複合施設「上勝町ゼロ・ウェイストセンター WHY」が誕生しました。WHYの立ち上げに携わった田中達也さんと運営するBIG EYE COMPANY Chief Environmental Officerの大塚桃奈さん、ブランディングプロデュースを担当したTransit Branding Studio(以下、Transit) 岡田光3名にインタビュー。前半では、「WHY」誕生までの秘話と今回特別に上勝町 町長の花本 靖氏に話をお伺いしてきました。

ゴミ処理施設併設のホテルと聞くと全く想像ができないのですが、どのようなきっかけで「WHY」は誕生したのでしょうか。

  • 田中

    私は徳島市内で食品の衛生検査会社を経営していて、2011年にひょんなことから上勝町の町長とお話をする機会があり、再生エネルギーの相談を受けたんです。しかし、いろいろな話を聞いていく中で、上勝町は当時人口わずか2500名程度の町で、本当に向き合うべき課題は“過疎”ではないのかと思ったんです。

    ちょうど同じくらいの時期にTransitの中村社長と出会い、そこで上勝町の話をした際に各方面にお声かけいただき、お越しいただくことになりました。そのメンバーの中に岡田さんもいらっしゃいましたね。

  • 岡田

    人口減少が課題と聞いて思い出したのが、山口情報芸術センター(通称YCAM)と情報科学芸術大学院大学(通称IAMAS)で、どちらも田舎にあるのだけど、人気があり各地から人がやってくる学校です。学校という一つの機能にすれば、繰り返し滞在してもらうことができ、それによって土地とのタッチポイントが増えると思いました。

    ちょうどその頃、友人のひとりから、毎夏1ヶ月イタリアのトスカーナに行って、ワイナリー付きのアグリツーリズム体験施設に泊まって家族で休暇を過ごしている話を聞きました。日本の従来のライフスタイルだと長期休暇を取得するのは現実的ではないし、どんなに素晴らしい宿泊施設であっても繰り返しいく場所にするのは非常に難しい、そこで頭に残っていた学校という機能に、アグリツーリズムを掛け合わせた短期のサマースクールをつくる企画に辿り着きました。

    そんなことを考えていた時に、2011年3月11日の大地震が起きます、そして福島の原発事故。これをきっかけに再生可能エネルギーへの注目が高まります。上勝町も自然エネルギーの取り組みをおこなっていましたが、一番熱心に取り組んでいたのがゼロ・ウェイスト。こんな小さな町で地球規模の取り組みをしていることに興味を持ちました。で、僕も興味をもったのだから、これを中心に企画を整理した方がいいのでは?というのが頭に浮かんで、そのころは一般的でなかった「サスティナブル」という言葉をメッセージにして、ここを環境教育の場として考える提案をしました。

  • 田中

    当初はいろいろ提案してもらったのですが、町のほうは全然理解ができず、みんなポカンとしているという様子でした。それから2年くらい遅々としても進まず、どうしたら理解してもらえるかを考えた時に、やはり自分がこの町に投資することが必要なのだと感じました。上勝の人たちからすると、私も徳島県出身とはいえ余所者なわけで、どこの馬の骨かもわからない人間が東京の会社と結託して箱モノを造ろうとしているように見えていると思ったんです。

    そこで、WHYのプロジェクトチームでもあるTransit、中村拓志&NAP建築事務所で、上勝町のゼロウェイストの取り組みを格好よく表現していくクラフト・ビール工場「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」(以下、RISE & WIN)を立ち上げました。

  • 岡田

    その他にも、都会的な雰囲気がするTransitに任せても安心してもらえるように、宇和島の登録有形文化財旅館の再生プロジェクトでプロデュースした木屋旅館を紹介したいと伝え、町議会の方々に見に来てもらう機会を設けました。

  • 田中

    そう、議員視察でね。もともと毎年行っていた議員視察に絡めて、今やろうとしている取り組みを見に行きませんか?と伝えたら賛同していただき、議員全員に来ていただきました。

  • 岡田

    木屋旅館に一泊して、一緒に食卓を囲み、熱く討論もしたけどそれでだいぶ距離が縮まったと思う。(笑)

  • 田中

    これまでパースを見せたり、プランを説明したりしたけど、RISE & WINを造ったことで見える化できたのが一番大きかったと思います。建物自体はハイカラで町民は入りづらいけど、コンクリートを固めたようなものではなく廃材を使っていて町の雰囲気にあったものというところから、少しずつ理解され始めたのを感じています。そこから町役場が「じゃあ、ちょっと話をしようか」という風に進んでいきました。

    最後は、各議会に呼ばれて、いろいろな議論を交わしましたね。岡田さんがヒートアップして注意されたりとか(笑)、そういうこともあったのですが、議員の1人の方から、「結局このプラン、町長としてはやるんですか、やらないんですか、どう思ってるんですか」という質問をしたところ、町長から「やるというつもりがあるから議題に乗せているんだ」という一声があり、それで決まったんです。

町と向き合い続けたことで信用を得て、今の形が出来上がったんですね。一見、公共施設に見えないネーミングですが「WHY」にはどういった意味が込められているのでしょうか。

  • 岡田

    WHYには「なぜ?」という問いかけが込められています。「なぜそれを捨てるのか?」と消費者に、「なぜそれを作るの?」と生産者へ向けた問いかけ、それと「なぜ上勝で?」も。ひとりひとりが「なぜ?」を持って上勝に遊びに来て欲しいです。あるいは、上勝に来たことで、「なぜ?」が心に湧いてくる人もいるでしょう。問いかけることがWHYのテーマです。

    ネーミングの由来は音楽からきています。前身となるRISE & WINはBen HarperのI’ll Riseからで、WHYは、Dischargeというハードコアパンクの楽曲になります。その曲は、戦争や紛争での目を覆いたくなる惨状を歌ったものですが、彼らはこんな時代だからこそ音楽を通して世の中を変えたいという強いメッセージ性を訴えかけていました。

    こういうエコロジカル系やサスティナブルってピースフルに見られがちだけど、実際はホモサピエンスの存続危機の煽りでしかありません。そういう時にはやっぱり強いメッセージ、アテンションが欲しいと思ったので、言葉よりも注意喚起力のあるワンワードに決めました。

受け取り方がそれぞれ違う中で、本質がブレてはいけないからこそハマったネーミングだと思います。WHYを通してどんなことを感じて、学んでいって欲しいですか。

  • 大塚

    上勝がすごいと思うのではなく、上勝町が18年以上取り組んできたゴミや社会との向き合い方から、自分たちの生活にも何かヒントになるようなことを見つけることができると考えています。20代の私からすると、もっと若い人に来て欲しいです。若い人がこの場所でチャレンジできるような、例えばこの場所に町内外の人がくつろげるような場所を作っていくとか、ゼロ・ウェイストに関わるテクノロジーの研究をしている人がラボとして活用して自身のPRにも役立てていくなど。私はこの建物自体が一つのメディアだと思っています。なので、そのストーリーと自分のやりたいことをうまくマッチさせて、そこから発信できるような場所として捉えて欲しいです。

  • 岡田

    2015年の国連サミットで発表されたSDGs、一般の人たちにも浸透してきたのはここ数年です。WHYのオープンがもっと早かったらこんなにも注目されていなかったと思うし…。タイミングよくそうなってしまったけど、でも正しいことではあるので、いろんな意味で使っていって欲しいと思います。

    上勝にきても、もしくは日本に暮らしていても、氷河が溶けているとか、傷ついた動物たちがいるとか、気候変動や生物多様性の毀損があるという危機感は感じない。南極で氷河が崩れるシーンや、北極で白熊が捕食できずに痩せ細っていくシーンを観るとこれはマズイなと感じると思います。だから、実はものすごくハードルが高くて、訪れた人たちにどこまで自分事としてショッキングに感じさせるかが難しいなと感じています。

    WHYに来て、こんな人たちがいるんだ、こんな場所があるんだと興味を持ってくれて、それから何度も来るうちに、だんだんと環境のことって大事だよねって思ってくれることが、もしかしたらWHYの在るべき姿だと思います。もともと環境に興味がある人は置いといて、一度来ただけで「環境を変える!」というのは嘘くさい気がします。上勝町の取り組みは奇抜でセンセーショナルなモノではないから、ゆっくりじんわりと啓蒙活動になっていけば。

    でも時間はないんですよね…ジレンマです(苦笑)

    生きていく中で大切なものって何だろうとか、長く生きていく中でどうしたら意味のある生きかたができるんだろうっていうのを感じるには、時間がかかるけどこういう場所が要ると思います。

後編へつづく

花本靖 町長特別インタビュー

弊社から上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」の企画を初めてお聞きになられた時のご感想をお聞かせください。

  • 花本

    ゼロ・ウェイストの取組に関心を持って下さりありがたいなと思いました、また取組を経済活動につなげる発想は、我々にはありませんでした。2003年のゼロ・ウエイスト宣言の中で3つの目標がありますが、1、2についてはある程度取組は出来たと思っていますが、最後の世界中に多くの仲間をつくる点については、十分ではないと感じていました、提案により世界中と言わないまでも、施設によって情報発信していけると思いました。

上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」が完成して、ご感想をお聞かせください。

  • 花本

    オープンして1年、導線がはっきりし、住民の方々の分別においてもよりし易くなってきたと思っています。コロナ渦の中にあっても多くの方に来ていただいています。ワクチン接種が終わり当初の利用計画が実行され、コラボレーティブラボラトリー等の利用についても実行されて行けば尚、活性化につながるものと思っています。

上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」が完成して、何か変わったことはありますか?

  • 花本

    施設が多くのメディアによって紹介された事により、一般の来場者はもちろんですが、著名人の来町も多くなってきています、今後もその連鎖が続くことを期待します。

これから上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」に期待することは何でしょうか?

  • 花本

    地球環境、ごみ問題等について、ゼロ・ウエイストセンターを通じて考えるきっかけとなってほしいと思っています、全国各地で焼却炉等の更新時期が来ています、今すぐにそれを変更することは難しいと思いますが、その焼却炉も20年〜30年が経過すると再び更新時期が来ると予想されます、ごみ処理の方法は多くの方法があります、同じ事を繰り返すのでは無く、上勝町の45分別の取組が新しい発想のきっかけになることを望んでいます。

WHY

徳島県上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みを象徴するプラットフォーム。
資源ごみ分別場の〈ゴミステーション〉、環境とビジネスを学ぶ〈ラーニングセンター〉、ゼロ・ウェイストアクションホテル〈HOTEL WHY〉、不用品交換スペース〈くるくるショップ〉、企業や教育機関に貸し出される〈コーポラティブラボラトリー〉などから成る環境型複合施設。

徳島県勝浦郡上勝町大字福原字下日浦7番地2

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